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ワン・キイ という店のこと

古久屋のサンマー麺
神奈川・藤沢 古久屋の「サンマー麺」


遅めのランチで中華そばを食べようとするたびに思い出すお店があります。
それは、イギリス・ロンドンの中華街にある「WONG KEI」(旺記:ワン・キイ)という中華料理店。

このお店、すこぶる評判が悪いのです。
お店に入ると無愛想に「How many?」(何人?)と訊かれて、人数を答えると唐突に「Upstairs!」(上に行け!)と命令される。そして上がった2階で誘導される大きな丸テーブルに座るときも、奥から詰めなければ「違~う! 詰めて座れ!」と怒られてしまうのです。
「なんだよぉ…」
席に着くやいなや注文を迫ってきて、「え~と…」なんて迷ってしまうと舌打ちでもされそうなぐらいの厭な顔をされて…。
最初は、日本人が嫌いなのか? 日本人を見下しているのか? と思うのですが、相席となった人たちの様子を眺めると、両手を上に向けて「仕方ないのよ」と同情の表情を見せてくれる白人の方々もいて、どうやら誰に対してもこんな接客をしている模様です。
配膳の際も同じ調子で、3~4人で行ったときなどは全員分の料理を運んできたのはいいとして、誰がどれを頼んだのかなんて全くどうでもよい問題であって、たまたま似たような料理をふたりが頼んでしまったときなどは「これは何?」と訊いても、「あんたが注文したものだ!」と答えるだけで料理の名前までは教えてくれません。
英語では「You」は単複同形で「あなた」とも「あなた方」とも訳せるので、きっと彼らは「あんた方が注文したものだ!」と言っているのだろうと、ボクは思っています。

決して悪意があるわけではありません。
サービスを教育されていないのか、サービスという点にスタッフの誰も考えが及んでいないのか、あるいはサービスという行為を禁止されているか。そういうことなのだろうと思います。
焼売の取り皿が白いテーブルクロスの上を滑って届けられました。

でも、このワン・キイ、客足が途絶えることなどありません。
必ず誰か先客がいて、たいてい混んでいる。それは、安くて美味しいから。
ボクがたびたびこのお店に足を運んでいた20数年前、日本の旅行ガイド「地球の歩き方」には、このお店には行かないようにという旅行者からのコメントが掲載されていました。
接客が酷くて店は汚いと書かれていたように記憶していますが、接客は酷くても、店内に不潔な印象はなく、なにより当時の中華街にあったお店の中では格段に安くて量もしっかりあるお店でした。
つまり、接客さえ我慢すれば、美味しくて安い、コストパフォーマンスの良いお店だったというわけです。
ボクは、イギリスにいた一年間、一度も日本食を食べたくなるようなことはなかったのですが、それはときどきこのお店に行って中華そばや炒飯を食べることができていたからなのでした。
それほどまでに、ボクはこのワン・キイで満足させてもらっていたのです。

いまだに「WONG KEI LONDON」と検索をかけると「"the rudest" restaurant」(最も無礼なレストラン)などという結果がたくさん見受けられます。
相変わらず失礼な接客ながらも、それでも廃業せずに続いているんだなと、ボクはうれしく思っています。

基本的にマスコミ取材には応じないという経営層がたまたま日本のそれほど有名でもない雑誌の取材に応じたときの記事に、無礼な接客は膨大な客数を効率よく裁くための戦略だと書かれていました。
つぎつぎとやってくる客を素早く裁いて回転率を上げるために、創業前に経営陣が考え出したのがこの無礼な接客だというのです。
その代わりに、味は代々大切に受け継がれ、また価格も熟慮の上で安価を継続しているのだそうです。
日本では絶対に受け入れられない経営哲学だとは思いますが、無駄を省く接客のひとつの考え方としては “あり” なのではないかと、ふと思ったりもします。

そういえば、日本でも店内で私語禁止であったりスマホの操作厳禁という料理店はありますよね?
日本の場合、そうすることによってどういう効率が上がるのかはわかりませんが、少なくとも日本での一般的なサービスやホスピタリティの常識からはやや外れていながらも、認められているお店はあるということです。
なので、ワン・キイのやり方も、味や値段が受け入れられれば通るのかもしれません。

味や値段を守っていくために、ワン・キイはチェーン展開も絶対にしないのだそうです。
あれだけ無愛想で失礼な接客なのに、そこまでストイックな経営姿勢。
ワン・キイで食べた中華そばや炒飯からは、そんな哲学の深い味わいもボクの腹に落ちていたのだろうと思います。

遅いランチタイムに中華そばを注文して待つ間に、中華料理店独特のあの香りに包まれると、いまだに「ハウメニ?」「アップステァーズ!」という声と共に、あのなんとも言えない安心する味を思い出してしまうのです。



Piccadily Circus, London in 1991
1991年冬 イギリス ロンドン ピカデリー・サーカスにて


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