映画 『おみおくりの作法』

《ものがたり》
ロンドンの南部、ケニントン地区の公務員、ジョン・メイ、44歳。
ひとりきりで亡くなった人の葬儀を執り行うのが彼の仕事。几帳面で、何事にもきちんとしているジョン・メイは、孤独死した人の家族を見つける努力を怠らない。彼らのためにしかるべき葬礼の音楽を選び、その人ごとに弔辞を書く。亡くなった人々の魂が、品位ある方法で眠りにつくのをきちんと見届けるのが彼の作法だった。
毎日同じ服を着て、遅れることなく仕事に行くジョン・メイ。まったく車が通らないような道であっても、渡る前には必ず左右確認。毎日同じ昼食をとり、帰宅すると同じメニューの夕食をとる。夕食後には、これまで弔った人々の写真をアルバムに収めるのが彼の日課だ。
規則正しい仕事と生活。……彼はいつでもひとりだった。しかし、ジョン・メイは自分の仕事に誇りをもっていた。
ある日の朝、ジョン・メイの真向いのアパートで、ビリー・ストークという年配のアルコール中毒患者の遺体が見つかる。いつも亡くなった人の想いを汲み取り続けてきたジョン・メイだが、自分の住まいのすぐ近くでその人を知らぬままに孤独のうちに人が亡くなってしまった……。小さなショックを受けるジョン・メイ。さらに、その日の午後、ジョン・メイは解雇されることを言い渡される。「君は仕事に時間をかけすぎだ」。
毎日の仕事がなかったら、毎日の決まりきった日課がなかったら、彼はどうしたらいいのだろう。
こうして、ビリー・ストークの案件はジョン・メイの最後の仕事になった。これまで以上に仕事に情熱をかたむけるジョン・メイ。彼はビリー・ストークの部屋から古いアルバムを見つける。そこには、満面の笑みで笑う少女の写真が貼られていた。ジョン・メイは写真を手掛かりに、ロンドンを飛び出してイギリス中を回り、ビリーの細切れの人生のピースを組み立ててゆく……。
旅の過程で出会った人々と触れ合ううちにジョン・メイにも変化が生まれる。これまで自然に自分で自分を縛ってきた決まりきった日常から解放される。食べたことのない食べ物を試し、いつも飲んでいる紅茶の代わりにココアを頼み、いつもと違う服を着て、パブで酒を飲み、知り合ったばかりのビリーの娘ケリーとカフェでお茶をする。
そして、まもなくビリーの葬儀が行われることになっていたある日、ジョン・メイはこれまで決してしたことがなかったことをするのだった……。



映画 『おみおくりの作法』

原題の「Still Life」を直訳すると「静物」。
いわゆる “静物画” の「静物」で、映画の一場面を写真にした “スチール写真” の “スチール” もこの Still という単語です。
身寄りがなく孤独死した故人の写真はまさに「静物画」であり、Still と Life という単語にわけて考えてみると、ジョン・メイがこれまでに取り扱った多くの人々の「穏やかな」「生涯」であり、ジョン・メイそのものの「静かな」「人生」も、全てが「Still Life」という意味合いを持っています。

ほとんどの映画で描き出される「死」は、サスペンスのきっかけであったり見る者の涙を誘う起爆剤として扱われるのが今どきのパターンですが、この作品では「死」そのものを物語として扱っているわけではありません。
扱われているのは、現在、どの先進国でも問題になっている高齢化と孤立化。
その中にある「孤独死」という問題について、それらひとつひとつの案件を実際に処理していくひとりの職員の仕事ぶりを通じて描き出した作品です。

地味でぱっとしない業務は、時は金なりの現代の資本主義社会において価値がなかなか見いだされず、ムダな工程と捉えられがちです。
しかし、そんな仕事でも、実直なジョン・メイは几帳面に取り組みます。
ムダと思われていようと心をこめて真摯になされた作業ならば、それはどれでも良い仕事だと思います。
誰にも理解されることなく執り行われた仕事ぶりは、必ず誰かがしっかり見ていてくれる。
この作品は「死」を扱うという孤独で暗いはずの仕事から、むしろ温かさを感じさせ、観る人を勇気づけてくれます。

一見、社会派の作品のように感じられますが、見終わってから思い返すと、やはりこれはイギリスの映画。
社会への痛烈な批判も暗に含ませながらも喜劇として表現する、イギリス伝統のブラック・コメディの一作です。
大きな社会問題を背景にしながらも、どこかくすっと笑わせて、最後には温かい気持ちにさせてくれる、素敵な作品でした。



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Re: 焼酎学生さま

この作品は、見ておくべき一本です。
但し、ボクが記事にするのは、ロードショーの公開直ぐというわけでもありませんので、なるべく早めにご覧になることをお薦めします。
素敵な作品でした。

No title

「最後には温かい気持ちにさせてくれる、素敵な作品」。
この映画をボクは必ず観にゆきます。
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